2008年7月5日土曜日

第18話:疑心暗鬼

占い師は俺達3人を石に置き換えて、俺達の考えと行動を説明しだした。

その真意を知る俺は、占い師が言う事に驚愕した。



占い師は3つの石を2人の前に置いて3人の関係を示した。

「この透明な石は、今の赤と青の関係について一切知りません」

「それは当然です。何故、別れた後に相手の人間関係を知る必要があるのですか?」

霧子が占い師に放つ言葉は、まるで向井に対しての感情そのものだった。

「奥田さん、これは例え話として受け止めてくださいね」

占い師は笑みを見せて霧子を落ち着かそうとした。

「透明の石は、青の石と離れた事実を未だ受け止めれません。

今も青の石の様子を伺いたくて、形を変えてあなたの前に現れる事もあるのでしょう」

「形を変えてって、どう言う意味ですか?」

霧子は占い師の話を聞くに堪えず、苛立ちの感情を見せた。

その様子を見かねて、亮は小声で「霧子!」と声をかけた。

「ごめん・・・、亮・・・」

心配する亮の様子に霧子は落ち着こうとした。

「いいんだ。占い師の先生は霧子を責めてるんじゃない。

それに、これは占いなんだ。どう受け止めようと俺達の自由なんだ」

既に亮は真実から目を背けようとしている。

その逆に霧子は占い師の言葉を真っ向から受け止めて、占い師の話に怒りの感情すら隠せない。

霧子は自分を落ち着かせようと、少し目を瞑り軽く息を吸った。

「すいません、どうしても先生の言う事が本当のようで・・・」

霧子は占い師に頭を下げた。

「奥田さん、私の言う事なんて口八丁。

こんな時間に来て頂いて、こんな事言うのも悪いのですが、

自分達の行動次第で、先の事なんて幾らでも変わります。

この話は過去の出来事として話しています。

本当の占いとは違います。

ただ先の事を考える題材として、話を聞いて下さい」


再び占い師は説明を始めた。

「この透明の石の方は、今、自分の気持ちを閉じています。

しかし青の石に対しての想いが強く残り、強い念がでています」

「その念が強いとと、どうなるのですか?」

霧子の頭には念と言うのは、執念ではないかと思え気味悪がった。

「良く聞かれる事なのですが、死んだ人の念が残り幽霊になって現れると言いますね。

それと同じ事で、生きている人からも念が現れる事もあります」

「生きている人からも霊が出るって言う事ですか?」

「はい、強い念であれば、はっきりと姿を確認できる場合もあります」

「私は、その念のせいで嫌な目に遭っているのですか?」

「それは分かりません。ある程度強い念を感じる以上、当分続くとは思います。

生きている人の念と言うのは、1度放たれると本人の意志とは関係なく現れますので」

「じゃあ、私がこれだけ困っていても相手は何も知らないと言うのですか!」

「はい、本人の意志とは無関係です。透明の石は青の石を心配してるだけです」

2人の会話を聞いていた亮が突然、大きな声で笑った。

霧子は突然の出来事で、亮がおかしくなったのでは?と思わされた。

「どうしたの、亮?」

霧子が亮の方を向くと、亮の表情は笑い顔から真剣な表情に変わった。

「悪いが、そんな話、誰が信用する?」

「私は、あくまで1例を申し上げただけです。それを信じるかどうかは2人の自由です」

「その話が本当だとしても、何故、彼女を恐がらせる必要がある?」

「別に恐がらせてなんていません。霊の存在云々より、人の想いを無視した行動に問題があるのです。

人の想いを無視した行動は、後々罰が下るのが基本的な流れなのです」

その言葉に今度は亮が冷静さを掻いた。

「仮に俺が人の想いを忘れていると言うなら、ここに大切な存在である霧子を連れて来るか?」

「亮・・・」

亮の発言に占い師を目を瞑り黙って聞いていた。

「押し問答をするつもりはありません。では質問させて下さい。

香川さん、あなたは前の店で不義理を起こしてますよね。

そして1人の人の気持ちを自分に向かせる為に誰を苦しませましたか?」

占い師の質問に亮は答える事が出来ず、突然立ち上がり全身が震えていた。

「亮? 大丈夫? もう帰ろう・・・」

亮の事を心配した霧子は、亮の腕を掴みながら訴えた。

「・・・霧子、悪い、少し席を外してくれないか?」

「え・・・、でも」

隣に居る亮は、霧子の知る亮ではなかった。

眉間に皺が寄り、占い師に対して怒りを抑えているようにも見える。

「分かった・・・」

その場を静かに立ち上がり、霧子は玄関の方に向かって行った。

霧子が玄関の扉から外に出てから、亮は腰をおろした。

「香川さん、私の話は図星ですよね? 今、霧子さんの傍に居るのは間違いなく前の彼氏でしょう」

「霧子も気持ちの悪い夢ばかり見ているから、そうなのかもしれない」

「前の彼氏の方は、あなたに騙された事も知りません。

一応、あなたの事は疑っていました。

そこは、以前、あなたが1番お世話になったマスターがあなたを守っています。

あなた自身、どれだけ不義理をしているのか分かりますか?」

「それは分かっている。だからこそお酒造りの情熱も捨てたんだ。霧子さえ手に入れば、俺は何も欲しがろうとは思わない」

「あなたの強い想いは、元々、お酒造りにあったのでしょう。

お酒造りに対して数々の努力をしたからこそ、お世話になったマスターからも認められたのです。

その気持ちを無視して、自分の立場が変わったからと言って、想いの変化を起こしてどうするのですか?」

「だったら、俺にどうしろと言うんだ」

占い師の表情が変わり、亮に笑みを見せた。

「私には、今のあなたが霧子さんを守れるとは思えません。

ですが、お酒造りの情熱と同じぐらいの気持ちで霧子さんを愛せるなら、

これからも霧子さんを守れるでしょう」

「じゃあ俺が霧子と一緒に居る事は悪い事でもないのか?」

「悪いも何も、悪い事をしてでも付き合いたかったのは、あなたなのでしょう。

だったら、これからも責任持って愛していけばいいんじゃないですか?」

その言葉に亮は救われる気持ちがした。

「すいません・・・、少し熱くなりすぎました」

亮は占い師に頭を下げた。

「想いの変化なんて、誰にでもあるでしょう。

誰かを好きになっても、また違う誰かを愛せるのも想いの変化。

何かを目指して情熱を持って向っても、途中で情熱がなくなり他の事に情熱が移る。

それも想いの変化。人の心を覗く事が出来てしまった場合、人の恐さが理解できて外に歩けなくなりますよ」

と苦笑いしながら占い師は言う。

「そうですか・・・」

そんな占い師に亮も同情したが、自分の心を見透かされていると思うと気味悪い。

「このぐらいにしておきますか? それとも、もう少し占いますか?」

「いや、今日は、このぐらいにしておきます・・・」

この時、亮は向井から霧子を奪う行動を起こした事を、初めて後悔した。

「ありがとうございます、また機会ありましたら、占って貰えますか?」

「予めお電話だけください」

占い師は亮に微笑みながら言った。

その表情を見て亮は気持ちが落ち着きだした。

そして亮は占い師にお金を支払い、マンションを後にした。


占い師が言うように、この先も霧子を愛する事が出来れば問題ないのだろう。

だが俺の中に一抹の不安がある。

向井の事ではなく、霧子の精神的な状態だ。

毎日、掛かる電話については、警察に連絡すれば解決するかもしれない。

しかし俺の行動を占い師に聞いた事で、霧子がどう思っているか分からない。

もし、ここで霧子が俺を疑うようになっていたら・・・。

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