占い師は俺達3人を石に置き換えて、俺達の考えと行動を説明しだした。
その真意を知る俺は、占い師が言う事に驚愕した。
占い師は3つの石を2人の前に置いて3人の関係を示した。
「この透明な石は、今の赤と青の関係について一切知りません」
「それは当然です。何故、別れた後に相手の人間関係を知る必要があるのですか?」
霧子が占い師に放つ言葉は、まるで向井に対しての感情そのものだった。
「奥田さん、これは例え話として受け止めてくださいね」
占い師は笑みを見せて霧子を落ち着かそうとした。
「透明の石は、青の石と離れた事実を未だ受け止めれません。
今も青の石の様子を伺いたくて、形を変えてあなたの前に現れる事もあるのでしょう」
「形を変えてって、どう言う意味ですか?」
霧子は占い師の話を聞くに堪えず、苛立ちの感情を見せた。
その様子を見かねて、亮は小声で「霧子!」と声をかけた。
「ごめん・・・、亮・・・」
心配する亮の様子に霧子は落ち着こうとした。
「いいんだ。占い師の先生は霧子を責めてるんじゃない。
それに、これは占いなんだ。どう受け止めようと俺達の自由なんだ」
既に亮は真実から目を背けようとしている。
その逆に霧子は占い師の言葉を真っ向から受け止めて、占い師の話に怒りの感情すら隠せない。
霧子は自分を落ち着かせようと、少し目を瞑り軽く息を吸った。
「すいません、どうしても先生の言う事が本当のようで・・・」
霧子は占い師に頭を下げた。
「奥田さん、私の言う事なんて口八丁。
こんな時間に来て頂いて、こんな事言うのも悪いのですが、
自分達の行動次第で、先の事なんて幾らでも変わります。
この話は過去の出来事として話しています。
本当の占いとは違います。
ただ先の事を考える題材として、話を聞いて下さい」
再び占い師は説明を始めた。
「この透明の石の方は、今、自分の気持ちを閉じています。
しかし青の石に対しての想いが強く残り、強い念がでています」
「その念が強いとと、どうなるのですか?」
霧子の頭には念と言うのは、執念ではないかと思え気味悪がった。
「良く聞かれる事なのですが、死んだ人の念が残り幽霊になって現れると言いますね。
それと同じ事で、生きている人からも念が現れる事もあります」
「生きている人からも霊が出るって言う事ですか?」
「はい、強い念であれば、はっきりと姿を確認できる場合もあります」
「私は、その念のせいで嫌な目に遭っているのですか?」
「それは分かりません。ある程度強い念を感じる以上、当分続くとは思います。
生きている人の念と言うのは、1度放たれると本人の意志とは関係なく現れますので」
「じゃあ、私がこれだけ困っていても相手は何も知らないと言うのですか!」
「はい、本人の意志とは無関係です。透明の石は青の石を心配してるだけです」
2人の会話を聞いていた亮が突然、大きな声で笑った。
霧子は突然の出来事で、亮がおかしくなったのでは?と思わされた。
「どうしたの、亮?」
霧子が亮の方を向くと、亮の表情は笑い顔から真剣な表情に変わった。
「悪いが、そんな話、誰が信用する?」
「私は、あくまで1例を申し上げただけです。それを信じるかどうかは2人の自由です」
「その話が本当だとしても、何故、彼女を恐がらせる必要がある?」
「別に恐がらせてなんていません。霊の存在云々より、人の想いを無視した行動に問題があるのです。
人の想いを無視した行動は、後々罰が下るのが基本的な流れなのです」
その言葉に今度は亮が冷静さを掻いた。
「仮に俺が人の想いを忘れていると言うなら、ここに大切な存在である霧子を連れて来るか?」
「亮・・・」
亮の発言に占い師を目を瞑り黙って聞いていた。
「押し問答をするつもりはありません。では質問させて下さい。
香川さん、あなたは前の店で不義理を起こしてますよね。
そして1人の人の気持ちを自分に向かせる為に誰を苦しませましたか?」
占い師の質問に亮は答える事が出来ず、突然立ち上がり全身が震えていた。
「亮? 大丈夫? もう帰ろう・・・」
亮の事を心配した霧子は、亮の腕を掴みながら訴えた。
「・・・霧子、悪い、少し席を外してくれないか?」
「え・・・、でも」
隣に居る亮は、霧子の知る亮ではなかった。
眉間に皺が寄り、占い師に対して怒りを抑えているようにも見える。
「分かった・・・」
その場を静かに立ち上がり、霧子は玄関の方に向かって行った。
霧子が玄関の扉から外に出てから、亮は腰をおろした。
「香川さん、私の話は図星ですよね? 今、霧子さんの傍に居るのは間違いなく前の彼氏でしょう」
「霧子も気持ちの悪い夢ばかり見ているから、そうなのかもしれない」
「前の彼氏の方は、あなたに騙された事も知りません。
一応、あなたの事は疑っていました。
そこは、以前、あなたが1番お世話になったマスターがあなたを守っています。
あなた自身、どれだけ不義理をしているのか分かりますか?」
「それは分かっている。だからこそお酒造りの情熱も捨てたんだ。霧子さえ手に入れば、俺は何も欲しがろうとは思わない」
「あなたの強い想いは、元々、お酒造りにあったのでしょう。
お酒造りに対して数々の努力をしたからこそ、お世話になったマスターからも認められたのです。
その気持ちを無視して、自分の立場が変わったからと言って、想いの変化を起こしてどうするのですか?」
「だったら、俺にどうしろと言うんだ」
占い師の表情が変わり、亮に笑みを見せた。
「私には、今のあなたが霧子さんを守れるとは思えません。
ですが、お酒造りの情熱と同じぐらいの気持ちで霧子さんを愛せるなら、
これからも霧子さんを守れるでしょう」
「じゃあ俺が霧子と一緒に居る事は悪い事でもないのか?」
「悪いも何も、悪い事をしてでも付き合いたかったのは、あなたなのでしょう。
だったら、これからも責任持って愛していけばいいんじゃないですか?」
その言葉に亮は救われる気持ちがした。
「すいません・・・、少し熱くなりすぎました」
亮は占い師に頭を下げた。
「想いの変化なんて、誰にでもあるでしょう。
誰かを好きになっても、また違う誰かを愛せるのも想いの変化。
何かを目指して情熱を持って向っても、途中で情熱がなくなり他の事に情熱が移る。
それも想いの変化。人の心を覗く事が出来てしまった場合、人の恐さが理解できて外に歩けなくなりますよ」
と苦笑いしながら占い師は言う。
「そうですか・・・」
そんな占い師に亮も同情したが、自分の心を見透かされていると思うと気味悪い。
「このぐらいにしておきますか? それとも、もう少し占いますか?」
「いや、今日は、このぐらいにしておきます・・・」
この時、亮は向井から霧子を奪う行動を起こした事を、初めて後悔した。
「ありがとうございます、また機会ありましたら、占って貰えますか?」
「予めお電話だけください」
占い師は亮に微笑みながら言った。
その表情を見て亮は気持ちが落ち着きだした。
そして亮は占い師にお金を支払い、マンションを後にした。
占い師が言うように、この先も霧子を愛する事が出来れば問題ないのだろう。
だが俺の中に一抹の不安がある。
向井の事ではなく、霧子の精神的な状態だ。
毎日、掛かる電話については、警察に連絡すれば解決するかもしれない。
しかし俺の行動を占い師に聞いた事で、霧子がどう思っているか分からない。
もし、ここで霧子が俺を疑うようになっていたら・・・。
2008年7月5日土曜日
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