2008年6月28日土曜日

第17話:3人の気持ち

俺は占い師の事を思い出した。

あの「不義理を行った」と俺に言い放った占い師であれば、

もしかしたら、少しぐらい当たるのではないかと思った。

早速、マスターから占い師が占いを行っている
場所を聞いて、

霧子を連れて、その場所へ向かった。




時刻は夜の10時。

亮の愛車が神戸の街を走っている。

しかし2人の様子は、普段出掛けている時とは違っている。


三ノ宮の商店街沿いを走る亮は、駅近くの交差点で山手に車を走らせた。

緩い斜面が続き、ゆっくりと右に曲がるカーブが続くとパーキングが見えてきた。

「霧子、この辺に車を停めて、後は歩いて移動しよう」

「うん・・・」

亮は占いなど信じる性格でもないが、今、起きる不思議な現象が何から来るものなのか知りたかった。

その逆に霧子は占いを信じる方だ。

それでも雑誌の占い程度で、本格的な占いは今日が初めてだ。


パーキングエリアから斜面を上ると、築10年程度のマンションが幾つか見えてきた。

亮はポケットからメモを取り出し、そのメモを開いた。

『シモニー』

幾つか建ち並ぶマンションを見ても、どのマンションも名前が挙がっていない。


丁度、1つ目のマンションの1階にコンビニエンスストアがあった。

この時間帯、道を尋ねるのにコンビニが1番適している。

亮は迷わずコンビニの中に入った。

数分も経たずに亮は、コンビニの店員からマンションの場所を教えて貰い、

亮はコンビニから出てきた。

「霧子、この奥のマンションだ」

「うん・・・」

亮は不安な霧子の様子を察して笑顔を見せた。

「占って貰うだけで何も恐い事は起きないさ」

「でも・・・」

「大丈夫だ」

出来る限り霧子の不安な気持ちを取り除こうと、亮は明るい様子を霧子に見せた。

2人は狭い路地を10m程進むと、マンションの入り口に辿り着いた。

マンションの入り口に『シモニー』と札が付いている。

亮はポケットから携帯を取り出し電話をかけ始めた。

「今晩は、香川亮です。そうです香川です」

電話の向こうの相手が話しだし、亮は少し黙ったが、

僅か2分程度で話が終わり、亮は携帯電話を切った。

「今、客が1名居て、後、10分程度待ってくれってさ」

「こんな時間でも客がいるんだ」

「あぁ、俺達の後にも予約客がいるから、相当人気のある占い師だ」

待ち時間の間、霧子だけに限らず亮も落ち着かなかった。


亮は脇に抱えていたセカンドバッグを開き、 その中から煙草とジッポを取り出した。

「亮、タバコを吸うの?」

「え? あぁ、時々な」

亮はバーで働きだしてから煙草を控えていた。

煙草を吸うと舌の感覚を麻痺するからである。

今もニコチンを欲するのではなく、待っている間、気持ちを落ち着かす為だ。

亮はマンションの壁にもたれ掛かり、霧子が傍に居る事すら忘れる程、 煙草の煙を肺に送り出した。

「ねえ、亮」

「ん?」

「今日の占いをしてくれる人って、どんな占いをするの?」

「俺も詳しい事は知らないんだけど、とにかく人の顔を見て言い当ててくるんだよ」

「亮は、どんな事を占われた事があるの?」

「俺・・・」

亮は一瞬言葉に詰ったが、次の瞬間に「俺は親不孝な人だってさ」と言った。

「それって当たってるの?」

「あぁ、間違いなくな」

亮は苦笑いした。

「でも、それって誰でも当てはまる事じゃないの?」

「俺の行いは不義理な事をしたって言ったのさ」

「そうだったの・・・」

霧子は詳しい事は亮から聞く事はしなかった。

普段から亮の口から家の事を聞かない為、 何か事情があるのだとは思っていたからだ。

『ブーッ、ブーッ、ブーッ、ブーッ』

亮のポケットから携帯のバイブレーションの音が聞こえた。

そしてマンションの中から1人の女性が出てきた。

「どうやら先客が帰ったようだな」

亮はポケットから携帯を取り出した。

「はい、分かりました。すぐに上がらせて貰います」

用件も早々に携帯電話を切り、「よし行こう」と亮はマンションの入り口に入った。


『コンッコンッ! コンッコンッ!』

マンションの扉を叩き、その音に反応して奥から「どうぞ」と聞こえてきた。

亮は真剣な眼差しをして、扉を開き「失礼します」と言った。

「どうぞ、入ってください」と奥から女性の声が聞こえる。

玄関から廊下を通り、部屋に入ると、そこには占いの本と石がたくさん置かれていた。

「汚い所ですが、どうぞ適当に座ってください」

占い師は自分の前に置いてある本を取り、後の棚に片付けた。

(何もない部屋だな)

亮は辺りを見回し、テレビや布団が一切置かれていない事に気づいた。

「ここは私の仕事部屋で住んでいる場所ではないのです」

「えっ・・・」

亮は自分の思った事に返答した占い師の言葉に驚いた。

「亮、どうしたの? 何かあったの?」

亮の驚く様子に霧子が反応した。


亮と霧子は床に座ると、占い師は2人の顔をじっと見出した。

「お名前を教えて頂けますか?」

「香川亮です」

「奥田霧子です」

占い師は一瞬真剣な表情に変わったが、すぐに微笑みだした。

「お2人とも嫉妬心の強い方のようですね~」

「あぁ、はい・・・」

占い師の言葉に否定の言葉さえ出ず亮は頷いた。

「それで今日は何を占って欲しいのですか?」

その言葉を待ってたかのように亮は話を始めた。

「実は今日、先生に診て貰いたいのは、隣に座る彼女の霧子の事で来ました」

「何かあったのですか?」

「最近、霧子の家に変な電話が多くて、その影響で霧子に不思議な出来事が起きているんです」

「そうね~、起きてるわね~」

「分かるのですか?」

一瞬、亮も占い師の反応に驚いたが、すぐに冷静な表情に戻った。

「そうね、男性関係の事で大きく彼女に影響されてますね」

「それは、どんな事なのですか?」

亮の質問に占い師は真剣な表情に変わった。

「まず、彼女の傍に1人の男性の影が見えます」

「それは誰なのですか?」

今度は霧子が質問した。

「あなたも気付いていると思うのですが、多分、以前深い関係のあった人ではないですか?」

「やっぱり、そうなのですか」

占い師の話に霧子も納得した。

「ここは遠慮して話すより、きっちりとした話をさせて貰ってもいいですか?」

占い師の話に、亮と霧子は覚悟を決めようとした。

「はい、お願いします」

先に亮が覚悟を決めた。

「どんな事でも知りたいので、お願いします」

次に霧子が覚悟を決めた。

占い師は2人の表情を見て話を始めた。


占い師は自分の後にある石を3っつ取り、それは2人の前に置いた。

石の色も透明、青、赤と3つの色に分かれている。

「まず、この赤の石が香川さんです。そして青が奥田さん」

占い師は赤と青の石を2人の目の前に置いた。

「そして、この透明の石は、奥田さんに関係していた男性の方です」

透明の石は、赤と青の石から離れた場所に置いた。

「赤は野望、情熱の石です。そして青は冷静、嫉妬の石です。

そして、この透明は何も知らない純粋な石です」

2人は真剣に占い師の置く石を眺めながら、自分達の関係を想像した。

「赤の石は青の石の気持ちを欲しいが為、

自分の想いを捨ててでも、青の石の気持ちを掴みたかった」

その話に亮の左の額から、少し汗がにじみ出てきた。

「青の石は透明な石に対して、もっと自分の方に向いて欲しかった。

でも透明な石は、それに気付けず自分のペースで頑張っていたのです」

「でも彼からは、一切、愛情が感じられなかった!」

霧子の中では、向井から自分に対して愛して貰っている気持ちを感じていない。

「これは占いよ。1つの話として聞いて頂戴。私の言う事は単なる客観的な見方の1つ」

占い師は霧子に微笑んだ。

「すいません・・・」

少し熱くなりかかった霧子は自分を恥じた。


俺は恐かった。

この占い師が的確に3人の気持ちを言い当てている事を・・・。

だが、今の話などは、所詮、3人の気持ちだ。

俺の知りたいのは、今、起こる出来事や霧子の夢、俺の夢の事だった。

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