俺は占い師の事を思い出した。
あの「不義理を行った」と俺に言い放った占い師であれば、
もしかしたら、少しぐらい当たるのではないかと思った。
早速、マスターから占い師が占いを行っている場所を聞いて、
霧子を連れて、その場所へ向かった。
時刻は夜の10時。
亮の愛車が神戸の街を走っている。
しかし2人の様子は、普段出掛けている時とは違っている。
三ノ宮の商店街沿いを走る亮は、駅近くの交差点で山手に車を走らせた。
緩い斜面が続き、ゆっくりと右に曲がるカーブが続くとパーキングが見えてきた。
「霧子、この辺に車を停めて、後は歩いて移動しよう」
「うん・・・」
亮は占いなど信じる性格でもないが、今、起きる不思議な現象が何から来るものなのか知りたかった。
その逆に霧子は占いを信じる方だ。
それでも雑誌の占い程度で、本格的な占いは今日が初めてだ。
パーキングエリアから斜面を上ると、築10年程度のマンションが幾つか見えてきた。
亮はポケットからメモを取り出し、そのメモを開いた。
『シモニー』
幾つか建ち並ぶマンションを見ても、どのマンションも名前が挙がっていない。
丁度、1つ目のマンションの1階にコンビニエンスストアがあった。
この時間帯、道を尋ねるのにコンビニが1番適している。
亮は迷わずコンビニの中に入った。
数分も経たずに亮は、コンビニの店員からマンションの場所を教えて貰い、
亮はコンビニから出てきた。
「霧子、この奥のマンションだ」
「うん・・・」
亮は不安な霧子の様子を察して笑顔を見せた。
「占って貰うだけで何も恐い事は起きないさ」
「でも・・・」
「大丈夫だ」
出来る限り霧子の不安な気持ちを取り除こうと、亮は明るい様子を霧子に見せた。
2人は狭い路地を10m程進むと、マンションの入り口に辿り着いた。
マンションの入り口に『シモニー』と札が付いている。
亮はポケットから携帯を取り出し電話をかけ始めた。
「今晩は、香川亮です。そうです香川です」
電話の向こうの相手が話しだし、亮は少し黙ったが、
僅か2分程度で話が終わり、亮は携帯電話を切った。
「今、客が1名居て、後、10分程度待ってくれってさ」
「こんな時間でも客がいるんだ」
「あぁ、俺達の後にも予約客がいるから、相当人気のある占い師だ」
待ち時間の間、霧子だけに限らず亮も落ち着かなかった。
亮は脇に抱えていたセカンドバッグを開き、 その中から煙草とジッポを取り出した。
「亮、タバコを吸うの?」
「え? あぁ、時々な」
亮はバーで働きだしてから煙草を控えていた。
煙草を吸うと舌の感覚を麻痺するからである。
今もニコチンを欲するのではなく、待っている間、気持ちを落ち着かす為だ。
亮はマンションの壁にもたれ掛かり、霧子が傍に居る事すら忘れる程、 煙草の煙を肺に送り出した。
「ねえ、亮」
「ん?」
「今日の占いをしてくれる人って、どんな占いをするの?」
「俺も詳しい事は知らないんだけど、とにかく人の顔を見て言い当ててくるんだよ」
「亮は、どんな事を占われた事があるの?」
「俺・・・」
亮は一瞬言葉に詰ったが、次の瞬間に「俺は親不孝な人だってさ」と言った。
「それって当たってるの?」
「あぁ、間違いなくな」
亮は苦笑いした。
「でも、それって誰でも当てはまる事じゃないの?」
「俺の行いは不義理な事をしたって言ったのさ」
「そうだったの・・・」
霧子は詳しい事は亮から聞く事はしなかった。
普段から亮の口から家の事を聞かない為、 何か事情があるのだとは思っていたからだ。
『ブーッ、ブーッ、ブーッ、ブーッ』
亮のポケットから携帯のバイブレーションの音が聞こえた。
そしてマンションの中から1人の女性が出てきた。
「どうやら先客が帰ったようだな」
亮はポケットから携帯を取り出した。
「はい、分かりました。すぐに上がらせて貰います」
用件も早々に携帯電話を切り、「よし行こう」と亮はマンションの入り口に入った。
『コンッコンッ! コンッコンッ!』
マンションの扉を叩き、その音に反応して奥から「どうぞ」と聞こえてきた。
亮は真剣な眼差しをして、扉を開き「失礼します」と言った。
「どうぞ、入ってください」と奥から女性の声が聞こえる。
玄関から廊下を通り、部屋に入ると、そこには占いの本と石がたくさん置かれていた。
「汚い所ですが、どうぞ適当に座ってください」
占い師は自分の前に置いてある本を取り、後の棚に片付けた。
(何もない部屋だな)
亮は辺りを見回し、テレビや布団が一切置かれていない事に気づいた。
「ここは私の仕事部屋で住んでいる場所ではないのです」
「えっ・・・」
亮は自分の思った事に返答した占い師の言葉に驚いた。
「亮、どうしたの? 何かあったの?」
亮の驚く様子に霧子が反応した。
亮と霧子は床に座ると、占い師は2人の顔をじっと見出した。
「お名前を教えて頂けますか?」
「香川亮です」
「奥田霧子です」
占い師は一瞬真剣な表情に変わったが、すぐに微笑みだした。
「お2人とも嫉妬心の強い方のようですね~」
「あぁ、はい・・・」
占い師の言葉に否定の言葉さえ出ず亮は頷いた。
「それで今日は何を占って欲しいのですか?」
その言葉を待ってたかのように亮は話を始めた。
「実は今日、先生に診て貰いたいのは、隣に座る彼女の霧子の事で来ました」
「何かあったのですか?」
「最近、霧子の家に変な電話が多くて、その影響で霧子に不思議な出来事が起きているんです」
「そうね~、起きてるわね~」
「分かるのですか?」
一瞬、亮も占い師の反応に驚いたが、すぐに冷静な表情に戻った。
「そうね、男性関係の事で大きく彼女に影響されてますね」
「それは、どんな事なのですか?」
亮の質問に占い師は真剣な表情に変わった。
「まず、彼女の傍に1人の男性の影が見えます」
「それは誰なのですか?」
今度は霧子が質問した。
「あなたも気付いていると思うのですが、多分、以前深い関係のあった人ではないですか?」
「やっぱり、そうなのですか」
占い師の話に霧子も納得した。
「ここは遠慮して話すより、きっちりとした話をさせて貰ってもいいですか?」
占い師の話に、亮と霧子は覚悟を決めようとした。
「はい、お願いします」
先に亮が覚悟を決めた。
「どんな事でも知りたいので、お願いします」
次に霧子が覚悟を決めた。
占い師は2人の表情を見て話を始めた。
占い師は自分の後にある石を3っつ取り、それは2人の前に置いた。
石の色も透明、青、赤と3つの色に分かれている。
「まず、この赤の石が香川さんです。そして青が奥田さん」
占い師は赤と青の石を2人の目の前に置いた。
「そして、この透明の石は、奥田さんに関係していた男性の方です」
透明の石は、赤と青の石から離れた場所に置いた。
「赤は野望、情熱の石です。そして青は冷静、嫉妬の石です。
そして、この透明は何も知らない純粋な石です」
2人は真剣に占い師の置く石を眺めながら、自分達の関係を想像した。
「赤の石は青の石の気持ちを欲しいが為、
自分の想いを捨ててでも、青の石の気持ちを掴みたかった」
その話に亮の左の額から、少し汗がにじみ出てきた。
「青の石は透明な石に対して、もっと自分の方に向いて欲しかった。
でも透明な石は、それに気付けず自分のペースで頑張っていたのです」
「でも彼からは、一切、愛情が感じられなかった!」
霧子の中では、向井から自分に対して愛して貰っている気持ちを感じていない。
「これは占いよ。1つの話として聞いて頂戴。私の言う事は単なる客観的な見方の1つ」
占い師は霧子に微笑んだ。
「すいません・・・」
少し熱くなりかかった霧子は自分を恥じた。
俺は恐かった。
この占い師が的確に3人の気持ちを言い当てている事を・・・。
だが、今の話などは、所詮、3人の気持ちだ。
俺の知りたいのは、今、起こる出来事や霧子の夢、俺の夢の事だった。
2008年6月28日土曜日
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