あれから霧子の家に毎日電話が掛かっている。
それを毎回出る霧子にも俺は呆れた。
まあ向井に霧子を取り返される可能性は少ない。
だから霧子の気持ちが済むようにさせる事にしている。
週末の夜、亮と霧子は霧子のマンションで過ごしていた。
「今日の料理は、あまり美味しくなかったな」
「あれだけ味の濃い物は、私も苦手」
2人は外で食事をした時の料理の批評をしながらリビングに入った。
リビングに入ると亮は両手で霧子の体を抱きしめた。
「まあ料理は不味くても、俺には霧子と言う最高の料理があるからいいさ」
「そんな言葉は要らないわ」
霧子はすっと亮の唇に触れた。
「その代わり、夜は亮の事を離さないかもね」
霧子は亮の傍から離れてキッチンの方へ入って行った。
「その前に向井の電話を何とかしないとな、
電話が掛かってきたら、今度は俺が何とかしてやるよ」
霧子は向井の電話が掛かる事を不安に思っていた。
マンションに戻ってからの霧子は、夜の電話を恐れているのか落ち着きがなくなっていた。
夜の0時過ぎには霧子はお酒でダウンしてベッドに入った。
亮は暗闇の中、1人で缶ビールを飲みながらテレビを見て笑っていた。
『トゥルルルル! トゥルルルル!』
いつもの時間に掛かる向井からの電話。
その電話に反応して目が覚めた霧子は、電話機の子機から電話に出た。
だが霧子も毎日掛かる電話にうんざりしているのか、電話に出ても返答もしなかった。
相手から一方的に話される中、少し気になった亮は霧子の居る部屋に入ってきて子機を奪った。
「おい! お前、いい加減にしろ! 別れた相手に何度電話すれば気が済むんだ!! しつこいぞ!!」
と亮は向井に対して怒鳴る。
電話の会話が一瞬だけ空いて、「お前こそ誰なんだ!! そこで何をしてる!!」と向井が言ったが、
顔も知らぬ男性が霧子の部屋に居る事を向井は焦っていた。
「今迄、霧子をほったらかしにして飲み歩いていた奴が、今更、何を言ってるんだ」
亮は声のトーンを低くして、相手を脅すように責めた。
しかし亮が霧子の方を振り向くと、霧子は耳を塞いで、
「ごめん、ごめんね」と何度も謝る事を繰り返していた。
亮は霧子の様子が心配になり、通話を切り霧子を優しく抱いた。
「大丈夫だ。大丈夫だから安心しろ」
そう言って亮は霧子をベッドに寝かせて自身もベッドに入った。
刻々と時間が流れて行く中、亮は眠くなっていたが、横に居る霧子は眠れる様子はなかった。
「霧子、眠れないのか?」
「うん、最近、こんな調子で睡眠不足なの」
亮は霧子の不安を少しでも取り除こうと、腕を霧子の頭の下に入れて腕枕をした。
そして腕枕にした腕を自分の方に寄せて霧子を傍に近づけて寝る事にした。
次の日の朝、霧子はお昼の時間帯が近づいても起きる様子がない。
最初の内は亮もテレビを見て、起きるのを待っていたが、徐々に待つくたびれてきている。
亮は霧子の横に潜り込み、霧子の着ているシャツのボタンを外していった。
しかし霧子は疲れているのか、服を脱がされても目を覚ます気配もない。
亮は霧子の首に舌を這わせ、霧子が目を覚ますように持って行く。
「う~ん」と霧子が首を動かした瞬間、亮は着ている服を脱いで霧子を力強く抱いた。
「やっと起きたか眠り姫!」
「あ、ごめん! 今、何時?」目が覚めた瞬間から霧子は時間が気になった。
亮は「11時だよ」と答えて霧子の下半身に手を回した。
亮は突然、本能を表に出し霧子を抱き始めた。
昨日の電話の事も忘れ2人は夢中でお互い求め続けた。
やがて夕刻が近付きベッドは静かになった。
「ふぅ~」と言いながら、亮は裸のままベッドの中から出てきた。
その後を追うように霧子も裸のまま顔を出した。
「ねえ、今日も泊まってくれない。何か不気味な感じがするの・・・」
亮はTシャツを着ながら「また明日来るよ」と言った。
「じゃあ今日も0時迄は居てくれる?」
「あぁ、その時間迄は居るよ」
俺は気付いていた。
向井からの電話が入るようになって、霧子の体重が激減している事を・・・。
それは霧子を抱く度に思っていた。
最初の頃、霧子の体はモデル顔負けのスタイルだった。
ウェストは細くても、それなりの胸の大きさは維持していた。
それが最近、胸が小さくなり、顔も頬骨が浮き始めている。
それだけ向井の電話は霧子を追い詰めていた。
だから俺は出来るだけ霧子の家に来る事を考えた。
その日、深夜の電話はかかってこなかった。
(昨日、怒鳴っておいたんだ。まず電話もかけづらいだろう)
「じゃあ帰るけど、明日、何か欲しいものはないか?」
「うぅん、特にない」
亮に甘えるように答えて、霧子は亮にしがみついた。
「また明日来るから、今日は駄目だよ」
亮は霧子の手を優しく掴んで、自分の体から離した。
「明日、待ってるね」
不安が霧子を襲うのか、霧子の表情が曇った。
霧子のマンションから亮の家迄、車で1時間程度掛かる。
途中、亮の家に近付くと住宅街から郊外の田舎道を通る。
そこを走っている時の事だった。
信号が赤になり、亮はゆっくりとブレーキを踏んで車を停めた。
信号が青に変わると今度はゆっくりとアクセルを踏んだ。
その瞬間、『ゴンッ!』と鈍い音が亮の座るシートから鳴った。
だが、それは座っている亮に衝撃が走っている。
(何だ! 今のは? 明らかに車内で何か衝撃を感じたぞ)
亮はブレーキを踏んで車を停めた。
シートベルトを外して、車の外へ出てシートを外から見た。
「今、確かにシートが後に引かれる感じがしたぞ」
シートの下に手を入れて、座席を前後に動かすが何もない。
「俺の気の迷いか・・・」
再びシートに座り、亮は車を走らせた。
車を走らせて数分後、曲がり道が見えない一直線の所を120Kmで走った。
周りの景色が次々と変わる最中、亮の座るシートが後ろにスライドした。
「まずい!! ブレーキに足が届かない!!」
アクセルから足が外れて速度は落ちるが、車は100Km前後のスピードが出ている。
亮は慌てて体を前に出そうとするが、動こうとするとシートベルトが締まり前に出る事ができない。
急いで左手でシートベルトを外し、亮は腰をシートの前に出して、
アクセルの方へ足を伸ばしてブレーキを踏んだ。
「やべえ・・・」
亮は車を脇に寄せて、ハンドルに頭を軽く打ち付けた。
「何なんだ、今のは?」
傍には自動販売機の灯りだけが見え、他は暗闇で何も見えない。
亮は車を降りて、自動販売機でコーヒーを買い飲み始めた。
「ハハハハ、アハハハハ! お笑い種だぜ! こんな所でおっ死んだらよ!」
コーヒーを一気に飲み干して、そのまま空き缶を離れた場所からゴミ箱へ放り投げた。
『カラン』とゴミ箱に空き缶を入れると亮は笑いながら車に乗り込んだ。
再び暗い夜道、自分の家を目指して帰って行った。
2008年6月14日土曜日
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