前回、霧子が店に来てから1ヶ月が経つ。
それ以来、霧子は店に姿を現していない。
そして転勤して初めて向井さんが店に現れた。
時刻は深夜の12時を過ぎて、店には常連客が5人居る。
マスターも常連客と一緒にグラスを傾けて飲んでいた。
店の中で仕事をしているのは見習いの亮だけだ。
「やっぱり名古屋と言えども、本社となると儲かっていますよ~」仕事が上手く行っている向井は上機嫌で喋っていた。
「今日は、俺のおごり、何でも頼んでよ!」
機嫌良く話す向井の様子を見て、他の常連客が「とか言って、実は全然上手く行ってなかったりしてな!」と笑いながら向井を冷やかした。
場が盛り上がっている最中、「お前、今日は彼女を連れて来てないけど、大丈夫なのか?」とマスターは向井の心配をした。
「アハハハ! まさか、ここに来ているとは言ってませんよ! 連れて来て皆の乗りが悪くなっても嫌ですからね~」マスターの心配は余所に向井は、この状況を楽しもうとする。
そんな状況下、カウンターの奥で騒がしい様子を冷静に見ている亮が居た。
(あんな綺麗な人を置いて、こんなくだらん騒ぎをして楽しいのか?)
亮の心の内では、店の雰囲気を壊す常連客を気に入らない点もある。
「向井~、そんな事言ってたら、他の男に彼女を取られるぞ~」と常連客の1人が冗談を言った。
「おいおい、お前達、少し酔いすぎだぞ。そんな事言われたら、向井も心配になるだろう」とマスターが言う。
「大丈夫ですよ~、本社に行けば、あの程度の女なんて、他にも一杯居ますよ~」酔い過ぎた向井の勢いを止める事は、誰も出来ない。
時刻が1時を過ぎた頃、カラン! と扉に掛かる鈴が鳴り、扉が開いた。
マスターが扉の方を向くと突然様子が変わった。
まるで見てはいけないものを見た時の様子。
マスターの様子に気付いた他の常連客も扉の方向へ向いた。
周りの者が次々と扉の方に視線を向け、驚いた表情をするので、向井も気になって扉の方を向いた。
扉の方向を見ると、向井の方を睨む霧子が立っている。
それを見て向井も表情が変わった。
「霧子・・・、お前、俺がここに居るのを知ってたのか?」向井は大阪に戻っている事を霧子に一言も伝えていなかった。
目の前に霧子が現れ向井も酔いが一気に冷めて行く。
「多分、そろそろ現れると思って」霧子の表情は険しい。
寒々しい空気が流れ、それを変えようとマスターが声を発した。
「お前達、早く、向井の彼女の席を空けてやれ!」他の常連客も霧子に気遣い、向井の横の席を空けた。
「さあ、どうぞ! ここを使ってください」と周りの者が笑顔を振りまくが、目だけは笑っていない。
明らかに最悪の状況に陥っている。
その後は腫れ物を触るかのように緊張感が漂い、場が静かになったままお開きを迎えた。
マスターが常連客を店の外に送って行く時、霧子がレジの傍に立つ亮に近付いた。
「香川さん教えてくれて、ありがとう」
そう一言残して、霧子は外に居る向井の傍に行く。
さすがのマスターも後味が悪いのか? その日の片付けは静かに行っている。
今更ながら霧子抜きで盛り上がっていた事をマスターは後悔していた。
そこに亮が「マスター、向井さん、大丈夫ですかね?」と話し掛けた。
「あ、あぁ、多分な・・・」
ホウキで床を掃いているマスターの表情は暗い。
「しかし、何故、向井がこの店に来ている事に気付いたんだろうな?」とマスターは呟いた。
その言葉に亮は、少し微笑しながら「女の勘って奴ではないですか?」と答えた。
(人の気持ちを逆なでするような付き合いなら、別れた方がいいのさ)
遠く離れる彼氏への想い、しかし裏切りを受ける事で霧子の想いに隙間が生まれようとしていた。
2008年3月28日金曜日
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2 件のコメント:
こんばんは。
拝読させて頂きました。
話が動き出して、とっても文章生きてきた気がします。
スムーズな流れで、描写もしっかり入って、うまいなあって思いました。
これからの展開、すごい楽しみです。
長編になりそうですねえ。頑張ってください(^^)
関 なみ
関さん、感想ありがとうございます。
それも、ここの初コメントで、凄く感激しています 苦笑
1度、描いた物語を書き直しすると、話の内容は多少良くなるのですが、文章面では何が良くて何が悪いのか?
凄く悩む事もあります。
今後も頑張りますので、応援よろしくお願いします。
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